2010年10月11日月曜日

再び、ギランバレー症候群とカンピロバクター食中毒との関連について

 ギランバレー症候群(GBS)の先行感染症としてカンピロバクター・ジェジュニ/コリが名指しされてからずいぶん経ったように思いますが、このことについては各自治体のリーフレットも控えめな表現が多く、もう一つ釈然としない思いがあります。
 カンピロバクター食中毒予防のために鶏肉等の生食自粛指導を行っているわけですが、今一度、情報を整理したいと思い  2009年6月に発表されました次の評価書の該当部分を読み直してみました。

 食品安全委員会  の 微生物・ウイルス評価書  鶏肉中のカンピロバクター・ジェジュニ/コリ
http://www.fsc.go.jp/hyouka/hy/hy-tuuchi-campylobacter_k_n.pdf

評価書は全部で105ページもあるので、以下にギランバレー症候群(GBS)に関係する部分を抜き書きしてみました。

☆ カンピロバクター腸炎とGBS との関連

 英国において実施された症例対照研究では、対照群の2%にC. jejuni によって起こるカンピロバクター腸炎(以下、C. jejuni 腸炎)が認められたのに比較して、GBS 群では26%であったこと(参照 69)、オランダでの同様の研究では、対照群の11%に比較してGBS 群では32%と有意にC. jejuni 感染の頻度が高いことが報告されており(参照 70)、疫学統計の解析結果からC. jejuni 感染のGBS との関連が確立している。(参照 71)

☆ GBSの感受性集団

 1994 年までの40 年間にわたる35 の国・地域におけるGBS 発生率の人口調査では、十代後半の若者と高齢者で発生のピークが見られ、子供より成人の方が高い発生率であることを示しており、性別については男女比が1.25:1.0 で女性より男性の発生率が高いことを報告している。(参照 74)

☆ GBSの発生状況
 日本では、GBS の発生状況に関する報告システムが存在しないため、正確なGBS 発生数は把握できていないが、諸外国と同率の発生率と考えられており(参照 75)、年間480~4,800 人(中央値1,560 人)のGBS 患者が発生していると考えられる。

☆ GBS の先行感染症
 急性に発症する四肢筋力低下又は深部腱反射消失を主徴とするGBS では、神経症状発現の前に、感冒様症状や下痢などの先行感染症状が多くの症例で認められている。
 オランダにおける154 例の症例対象研究の結果、先行感染病原体として4つの病原体(C. jejuni 、Cytomegalovirus、 Epstein-Barr Virus 及びMycoplasma pneumoniae)が示され、そのうちC. jejuni が32%を占めていたことを報告している。(参照 76)
 なお、Haemophilus influenzae による呼吸器感染症も主要な先行感染症として近年注目されてきているところである。

☆ C. jejuni 腸炎からGBS への進展
 米国でのC. jejuni 腸炎とGBS の年間発症数をもとに、C. jejuni 腸炎1,058 人中1 人がGBS へ進展すると試算した報告(参照 77)がある。スウェーデンで行われた追跡調査では、C. jejuni 腸炎約3,000 人中1 人がGBS へ進展することを示した報告(参照 71)がある。

参照
(69) Rees J. H. ; Soudain S. E. ; Gregson N. E. ; Hughes A. C. . Campylobacter jejuni infection and Guillain-Barre’ syndrome. New England J. Medicine,1995, vol. 333, no.21, p. 1374-1379.

(70) Jacob B. C. ; van Doorn P. A. ; Schmitz P. I. M. ; Tio-Gillen A. P. ; Herbrink P. ; Visser L. H. et al. . Campylobacter jejuni infection and anti-GM1 antibodies in Guillain-Barre’ syndrome. Ann. Neurol. , 1996, vol. 40, p.181-187.

(71) 古賀道明,結城伸泰.Campylobacter jejuni 腸炎とギラン・バレー症候群.感染症学雑誌. 2003, vol. 77, no. 6, p. 418-422.

(74) Hughes R. A. C. ; Rees J. H. . Clinical and Epidemiologic Features ofGuillain-Barre´ Syndrome. J. Infectious Diseases, 1997, vol. 176(Suppl 2),S92-98.

(75) 国立感染症研究所:感染症情報センター.病原性微生物検出情報:感染症の話「カンピロバクター感染症」. IDWR. 2005, no. 19. http://idsc.nih.go.jp/

(76) Jacobs B. C. ; Rothbarth P. H. ; van der Meche’ F. G. A. ; Herbrink P. ;Schmitz P. I. M. ; de Klerk M. A. et al. . The spectrum of antecedent infections in Guillain-Barre’ syndrome. : A case-control study. Neurology,1998, vol. 51, p. 1110-1115.

(77) Allos. B. M. Association between Campylobacter Infection and Guillain-Barre´ Syndrome. J. Infectious Diseases, 1997, vol. 176(Suppl 2),p. S125–128.

2010年10月5日火曜日

記録的猛暑で食中毒は増えたか?

 先日、大阪府の食中毒発生状況(速報)が更新されましたので私のアーカイブに「記録的猛暑で食中毒は増えたか?」と題して現時点でのこの夏の状況をまとめてみました。
 食中毒の発生は「平均気温」や「熱帯夜」の日数だけでは決まらないというのが結論で、その時代状況というか公衆衛生上の食品衛生を巡る大きな流れにも左右されるようです。

 
 上のグラフは平成20年1月から平成22年8月までの大阪府における月別発生件数のグラフです。
このグラフからは、今年は発生件数が少なかったように見えますが、大阪府のみのデータでは事件数も少なく、平成22年8月が例年に比べ食中毒の発生が多かったとか少なかったとは言えないようです。
 そこで、厚労省の食中毒統計などを利用し、次の資料を作成し「食品衛生なんでも相談室」のアーカイブにアップしました。
 「資料23 記録的猛暑で食中毒は増えたか?」
   http://www.shokuei.sakura.ne.jp/archive/mousyo_2010.html

 上記資料には、平成13年から平成21年までの大阪市の平均気温と同時期に全国で発生した食中毒の発生件数を併せたグラフも作成しています。このグラフからは興味深い傾向がみられますが、この謎解きのための、原因別発生状況のグラフも併せてお示ししています。